貝畑君を偲ぶ

　　　　貝畑市三君の思い出

　　　　　　　　　　　　渡辺　　進

　君は、小学校6年の春に田園調布小学校に転校してきました。

なんでも、転校はお母さんの強い希望に沿ったもので、君自身はそれまでの友達と別れるのがとてもつらかったそうですね。

私たちはスポーツが得意な新しい友達ができてとてもうれしかったことを憶えています。なにしろ君はソフトボールの遠投で、50ｍも投げてみせ、皆の度胆を抜きました。

君は田園調布中学校を経て日大三校に進み、更に日大に進みましたね。日大ではゴルフ部に所属し、先輩の沼沢プロに教えてもらいながら、一時はプロも目指したとも聞きました。私もその頃ゴルフの練習場に一緒に行った事がありましたが、君はネットの上段、中段、下段、左右、スライス、フックと、狙ったコースに球を自在に打ちわけることが可能でした。この技術が仕事に、営業に役立ったと、後に言っていました。

大学卒業後、結婚し、奥様の父上が経営する会社に勤めました。君のお母さんが倒れた時、奥様が献身的に介護してくれ、君は大変感謝していました。

その後、君は思うところがあって、建築業を始め、やがてバブル期を迎えて、店は大いに繁盛しました。同時に、お客さんと連日夜遅くまで付き合い、金曜日になるとグアムに出かけてはゴルフをし、月曜朝に戻って仕事をするという過酷な生活を繰り返して、40代半ば頃、医者から「こんな生活を続けたら、そのうち命を落とす」と警告を受けたのですが、君は「病気の方が俺から逃げていく」と、ろくに治療もせず、相変わらずハードな生活を続けていました。

君は1998年、田小卒業40周年記念で箱根の紀伊国屋に皆と一泊旅行に行った時はまだ元気でしたが、2004年に"金時山登山再現の旅"で箱根に行った時は、既に病状が悪く、君は皆さんに迷惑をかけるからと遠慮していました。私は箱根の救急病院を探し、万一の時は受け入れてもらうように頼み、さらに私の車で送り迎えをすることを条件にご家族にも了解をいただいたので、君は参加してくれました。実は、私も心筋梗塞をやった後で、医者からは長距離は避けることを条件に運転の許可をもらっておりましたが。

　　　 2004.8.29 金時山登山再現の旅、大雄山最乗寺近くの飯屋にて

　その帰りの車の中で君は、「田小の仲間が病人扱いしないで迎えてくれ、本当にうれしかった。貴方のお蔭で私も参加することができた。」と大いに感謝してくれました。

君へのお見舞いには何度行ったことでしょうか。回数は覚えていませんが、お見舞いに行くときには必ず金元君の協力を得て「仁藤の豆腐」を持っていくと心から喜んでくれました。

やがて治療に専念するため、会社経営は番頭さんに譲りました。その時、君は、「携帯電話のない世界がこんなに素晴らしいこととは思わなかった」と言ってましたね。

以来、君は壮絶な闘病生活の連続でした。

人工透析を始める頃には、歩行が困難で車椅子の厄介になるようになり、また階段のある等々力の家から引越ししましたね。更に透析の回数が週1回から3回に増え、障害者1級に認定され、そのうち、気晴らしにしていたインターネットによる株取引も、目の負担になるからと、医者から止められました。

60歳を迎えたころには、心臓の冠動脈が硬化し、足の血管を心臓に移植するという大手術もしました。更に病状が悪化し、右足首から先が壊死し、切断せざるを得なくなった時、いつも強気の君が泣きながら「これでゴルフができなくなったよ」と私に電話をかけてきたきたことは忘れられません。さらに1年後、今度は左足の膝から下が壊死し、切断しました。これで完全に一人で車椅子に座ることが出来ず、トイレもベットの横におくようになりました。

その後の君の唯一の楽しみは娘さんのお孫さんがスポーツ万能で、その成長を見る事でした。
私が昨年（2012年）５月に見舞いに行った時彼は、「ナベさん、もー疲れた。家内には本当に苦労を掛けた。医者から警告を受けた時、家内と娘に『仕事は番頭さんにしばらく任せ、治療しなさい』と何回も言われていたが、聞いておけばよかったなー。そしたらナベさんとゴルフができたけど。」と言ったあと、「悪いけど、後ろにクラブがあるから取って」と言われ、ベットの上で「今の打ち方はこうだ」と教えてくれました。本当にうれしそうに一生懸命上半身を使って指導してくれた姿が忘れられません。

同年７月に電話をしたとき「孫と富士五湖に出かけたが、御殿場で体調がおかしくなりタクシーで帰ってきた。」これが貝畑君との最後の会話になりました。

　貝畑君、長い長い闘病生活、本当にご苦労様でした。どうか安らかにお眠りください。

　君が逝き、田小の仲間の一人がまた減るのは寂しい限りです。

　残された私たちは、時に君を偲び、過ぎ去った子供の頃を思い出すとともに、残された日々を大切に生きていきたいと思います。　　　　　　　　　　　合掌　　　　　